構造生物 Vol.4 No.3
1998年12月発行

DNAグリコシラーゼスーパーファミリーの3次元構造と機能


山縣ゆり子

大阪大学大学院薬学研究科

はじめに

 DNAは遺伝子という極めて強い安定性を要求される物質にも拘らず、化学的には不安定で、種々の光、放射線、化学物質、酸素ラジカル、細胞内在性物質等により容易に修飾を受ける1)。 DNAの修飾は、多くの場合、DNA複製や転写時エラーを起こすなど突然変異誘発や細胞死の原因になり、生命や遭伝情報を維持する上で重大なDNAの損傷となる。全ての生物は、これらDNA損傷を修復するため、様々なDNA修復機構を備えている2)。その一つに初めに損傷DNA塩基が切り出される塩基除去修復と呼ばれる機構がある。特定のDNAグリコシラーゼが特定の損傷塩基のN−グリコシド結合を加水分解し、損傷塩基を除去する。この結果生じた脱塩基部は、APエンドヌクレアーゼによってそのリン酸ジエステル結合が切断され、デオキシリボホスホジエステラーゼが糖を切り出す。その後、DNAポリメラーゼとDNAリガーゼが働き、修復が完成する。DNAグリコシラーゼにはAPエンドヌクレアーゼ(正確にはAPリアーゼ)活性を合わせもつものもある。

 塩基除去修復機構で修復される損傷は、初めに働くDNAグリコシラーゼの基質特異性に よって決まる。多様なDNAの損傷に対応して多数のDNAグリコシラーゼが存在する。シ トシンが脱アミノ化されて生じるウラシルを除去する広範な生物のウラシルDNAグリコシ ラーゼ(UDG)、細胞内外のメチル化割により生じる3−メチルアデニンを除去する大腸 菌3一メチルアデニンDNAグリコシラーゼ(3mADG)Tや酸化により生じる8−オキソ グアニンを除去するヒトや酵母の8−オキソグアニンDNAグリコシラーゼ(OGDG)のよう に基質特異牲が高いものと、酸化により生じるチミングリコールなど酸化ピリミジンを除去する大腸菌やヒトのエンドヌクレアーゼV(EndoV)、一連のアルキル化塩基を除去する大腸菌3mADGII(alkA遺伝子の産物なのでAlkAと呼ぶ)や真核生物の3mADGのように暗 広い基質特異牲を持つものがある。また、それぞれAPリアーゼ活性を持つものと持たないものがある。基質特異性、酵素活性、蛋白質の一次構造から判断すると、現在のところ10数種のDNAグリコシラーゼに分布できる3,4))。

 DNAグリコシラーゼの3次元構造に関する研究は、1992年に、紫外線により生じる ピリミジンダイマーの5'側のグリコシド結合を切断し、脱塩基部の3'側のリン酸骨格を切るAPリアーゼ活性も合わせもつバクテリオファージT4エンドヌクレアーゼV(EmdoV)5)と、同様にAPリアーゼ活性をもつEndoV6)の]線構造解析が報告されたの最初で、その後、単純ヘルペスウイルスT型とヒトのUDG7,8)、AlkA9,10)、大腸菌G:T/UミスマッチチミンDNAグリコシラーゼ(MDG)11)の]線構造解析が報告された。Endo V12)、UDG13)、MDG11)については、それぞれ損傷DNAオリゴマーとの複合体の]線構造解析も報告されている。これらDNAグリコシラーゼの]線横造解析から1)現在のところDNAグリコシラーゼの活性ドメインの立体構造は3種に分類されるが、それらは他の報告されている蛋白質には見られない特有の構造型である。2)活性部位における種間のアミノ酸残基の保存性には、基質特異性が高いか低いかで明確な差が見られる。3)DNAグリコシラーゼによる損傷塩基の認識は、損傷塩基もしくはその相補塩基の2重ラセンからのフリップアウトを伴う。4)現在知られているDNAグリコシラーゼの半数以上は、立体構造が良く似た活性ドメイン構造を持つDNAグリコシラーゼスーパーファミリーに属する。等が明らかになり、DNA修復酵素の作用機序や分子進化に閑する理解が深まると同時に、遅れていた高等生物のDNA修復酵素の研究が著しく進展した4,14)

 本稿では我々が]線構造解析したAlkAを中心にDNAグリコシラーゼスーパーファミリー の3次元構造と機能の相関に注目して話を進める。

AlkAの3次元構造と活性部位

 大腸菌には、分子量、基質特異性、アルキル化剤に対する適応応答の点で異なる2種類の3mADGが存在する。3mADG I が分子量21000、3mAのみを認丸し、構成的に存在する酵素 であるのに対し、3mADGUすなわちAlkAは分子量31000、3mAに加え様々なアルキル化プ リン、ピリミジンを認識し、低浪度のアルキル化剤処理等によって誘導される適応応答に含まれる酵素である。両者のアミノ酸配列には有意な相同性は認められない15)。細菌類の中には大腸菌のように2種類の3mADGを含むものもあるが、真核生物では、現在のところAlkAと同じように基質特異性の低いものが1種類のみ存在することが報告されており、それらはAlkAと共通の祖先から進化したものと考えられている。真核生物でも酵母由来の3mADGとAlkAのアミノ酸配列の相同性は有意であるが、高等生物の3mADGとAlkA間では明確な相同性は見いだされていない16)

 我々は、2年前、2.3Å分解能で解析したAlkAの構造を報告した9)が、最近、高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設のBL18Bにて100Kで収集した1.6Å分解能データを用いて構造を精密化した(表1)のでこの構造に基づき話を進める。AlkAは全体としては楕円体をしており、3つのドメインから構成されている(図1)。ドメイン1は、5本のβ鎖からなるβシートとその片面に2本のαヘリックスをもつα+β型構造、ドメイン2と3は、それぞれ7本と4本のαヘリックスからなるα型をとっている。ドメイン2には短いβ鎖2本も含まれる。

 ドメイン1のα+β構造は、真核生物の基本転写因子であるTATAボックス結合蛋白質 (TIiP)の対称的な2つのドメイン17)と同一の構造型である(図2)。β鎖間のループ部の長さが異なるところが多いが、3次元構造上対応する2次構造を構成する56残基のCα原 子を重ね合わせると、Cα原子間のr.m.s.d.は、1.4Åでコア部はよく一致している。しかしながら、3次元構造に基づき両者のアミノ酸配列を並べても1次構造上の類似性はまったく認められない。TBP型ドメイン構造は、アミノ酸配列の相同性から、調べられたすべての真核生物と原核生物でも古細菌には存在することが知られていたが、真正細菌で存在が示されたのは、AlkAのドメイン1が初めての例である。従って、進化の過程で比較的新しく生まれたと考えられていたTBP型ドメイン構造18)は、真正細菌、古細菌、および真核生物が共通の祖先から分かれる前から存在する構造型と思われる。AlkAにおけるドメイン1の機能については、現在まで何もわかっていない。

 一方、ともにα型であるドメイン2と3は、先に述べたEndoV6,19)とよく似ていた(図3)。2つの蛋白質の構造類似性は、アミノ酸配列のホモロジー検索や3D−1D法20)からは推定できなかった。立体構造に基づき、アミノ酸配列を並べてみると、対応する181残基のうち34残基が一致する。3次元的に対応する位置にある10本のへリックス(α4〜α12)を重ねると98のCα原子間のr.m.s.d.は2.2Å とずれはやや大きい。ドメイン2と3の間の溝の大きさが両者で異なり、AlkAの溝がE皿doVのものより狭くなっているが、それは、通常よく見られるドメイン間のopening−closingによると言うよりは、ドメイン2のヘリックスーヘアーピンーヘリックス(HhH)モチーフ19)と呼ばれるα8、9とドメイン3のα10と11が一つ剛体、ドメイン2のα4、5、6、6’、7が一つの剛体となって、それらの相対位置が異なった結果で、珍しい例である。これらのそれぞれ対応するヘリックスを重ねたときのCα原子間のr.m.s.d.は、1.1Å と1.2Åで、類似の立体構造の中でもよく似ている場合に見られる値であった。AlkAのドメイン2と3とEndoVの構造で、ドメイン間の溝の大きさ以外に異なるところは、ドメイン3のα3とドメイン2のα4に続く長いループ、および、C末領域で、これらは、それぞれEndoVにはないドメイン1との境界領域、AlkAにはない〔4Fe−4S]クラスター結合領域であることから説明できる。

 全くわからなかったAlkAの活性部位がドメイン2と3の間の溝にあることについては、 部位特異的変異実験から明らかにした9)。はぼ構造が明らかになった1994年当時、アミノ酸配列が報告されていた3mADGのうち、枯草菌と出芽酵母由来の3mADGが、AlkAとアミノ酸配列上明確な相同性を持っていた。3者間で相同性の高い領域すべては、ドメイン2と3の間の疎水性残基の多い溝に面し、この領域に活性部位があることが示唆された。そこで、この溝とその付近にあり、3者間で保存されている残基(Gln124、 Asp237、Asp238、Trp218)の変異遺伝子を作成、アルキル化剤感受性株(MS23)に変異型AlkAを産生させ、アルキル化剤メチルメタンスルフォン酸(MMS)に対する感受性の変化を調べた。MS23株での各変異型AlkAの産生はAlkAに対する抗体を調製、ウェスタンプロット解析を行い確認した。さらにアルキル化剤に対する耐性が野性型のようには拘復しなかった変異型については、蛋白質を精製、遠紫外部のCDスペクトルを測定したところ、変異型のスペクトルはすべて野性型と同じであったことから、変異型の高次構造は保持されていると判断した。また、精製した変異型については、[3H]N−メチル,N−ニトロソウレアをDNAと反応させ作った[3H]メチル化DNAを基質とし、切断された[3H]メチル化塩基の量を計り、グリコシラーゼ活性を測定し(図4)、MMS感受性実験と合わせて考察した。その結果、港の内側にあるAsp238とTrp218が、活性に関与する残基であることがわかった。その後、Trp272の変異逮伝子も作成、MMS感受性実験からTrp272も活性に重要な残基であることがわかった。全結果を表2にまとめ、表の+++、++、+、-で示した代表的なもののMMSに対する生存率を図5に示す。

 これまでに我々の結果から活性部位について明らかになっていることを下記に示す。

(1)D238N変異型の活性は、測定した限りの条件では検出できなかった。238位のAspは、報告されている3mADGホモログはもちろん、後で述べるようにグリコシラーゼスーパーファミリーに属するすべてのDNAグリコシラーゼ並びにそれらとアミノ酸配列に相同牲をもつゲノムのORFに完全に保存されている2残基のうちの一つ(あと一つはH hHモチーフの Gly)であることも含めて考えると、Asp238が触媒活性残基であると結論できる(図6a)。

(2)W218YとW272Y変異型は、MMSに対する耐性がはぼ野生型と同様にもしくはある程 度回復するが、W218AとW272A変異型の耐性回復は少ない。側鎖に正電荷を持つLysに変 放したW218K変異型では、MS23株とまったく同じ感受性のままであった。これらのことか ら218や272位には芳香族側鎖をもつアミノ酸が必要で、これはメチル化塩基を認残するのに重要と考えられている。我々は、以前から芳香項と正に荷電したアルキル化塩基は特異的にスタッキング相互作用することを示して来たし21,22)、AlkAが認識するアルキル化塩基の一つである7−メチルグアニン塩基を芳香族アミノ酸側鎖で認残する例がmRNAのキャップ構造結合蛋白質(eIF4E)23)やキャップ構造特異的RNAO2'-メチルトランスフエラーゼ(VP39)24)とヌクレオチド複合体の結晶構造でも見いだされている。W218K変異型がメチル化塩基に対するグリコシラーゼ活性を全く示さないのは、Lys残基とメチル化塩基は共に正に荷電しているのでお互いに反発しあい、活性部位の溝にメチル化塩基が入れないと考えるとうまく説明がつく。ちなみに現在までに明らかにされているAlkAと相同性のある蛋白質(9種)の218位は共通してTrpで、272位は1種(Leu)を除いてTrpである。

(3)静電ポテンシャルの計算、アルキル化DN AとAlkAとのコンピューターグラフィッ クス上でのドッキングなどから、DN Aは、AlkAのドメイン2と3の間の溝を横切って正 電荷が広がる領域に結合すること、アルキル塩基が活性部位にあるAsp238やTrp218/272と相互作用するためには、切断されるアルキル化塩基を含むヌクレオシド部は、DNA2重ラ センからフリップアウトし、活性部位の溝に結合することが必要と示唆された。酵素による、標的となるDNA塩基のフリップアウトを伴うDNA認識は、はじめ、HhaI25)、引き続き、Hae I26)のDNAシトシンー5−メチルトランスフエラーゼとそれぞれの基質DNAオリゴマー複合体の結晶構造の中で見いだされ、新しい蛋白質−DNA相互認識機構として注目された。このようなフリップアウトした標的塩基の酵素による認哉は、その後、解析されたウイルスとヒトUDG、T4β−グルコシルトランスフエラーゼ、大腸菌光回復酵素のそれぞれの立体構造からも、DNA中の基質を認哉する上でもっとも都合のよい機構であると報告された。また、これ以前に解析された大腸菌OGMTのC末ドメインについても、標的塩基のフリップアウトを考えると活性残基のCysが蛋白質内部に存在していたなぞが解ける27)。このアイデアが正しいことは、ヒト変異型UDG−ウラシルを含むDNAオリゴマー複合体13)と大腸菌MDG−DNAオリゴマー複合体11)の結晶構造で示された。一方、Endo V の損傷DNAの認各様式は、標的塩基のフリップアウトではなく、標的塩基の相補的塩基のフリップアウトであった12)

(4)AlkAの特徹の一つ暗広い基質特異性をいかにして発現しているかについても幾つか の知見が得られた。種間ではとんど完全に保存された残基からなる、ウラシルのみを厳密に認致するUDGの活性部位ポケットと異なり、AlkAの活性部位はまさしく溝で、種間のアミノ酸残基の保存性も2つのTrp残基を除くとはとんどない。この溝に入ることができ、そのグリコシド結合のCl’がAsp238の求核攻撃、もしくは、Asp238によって活性化された水の求核攻撃(図6a)を受けることのできる位置に配置できる損傷塩基が基質となり得ると思われる。抗生物質のようなかさ高いアルキル化剤による修飾を認哉できないのは、修飾塩基がこの溝に入らないためとわかる。(2)で述べたようにこの溝の底は正に荷電したアルキル化塩基を好む芳香族側鎖が位置しているので、アルキル化塩基が最も良い基質であることは確かであるが、必ずしも正電荷を持たなくても基質になることもこれで説明できる。さらに最近、Seebergら28)は、AlkAが正常塩基、特にグアニン塩基、ついでアデニン塩基も切断していることを報告したが、これも説明できる。なお、大腸菌は適応応答でAlkAの産生を誘導するが、その程度は通常徹量に存在する時のたかだた20倍ぐらいなので、3桁以上反応の遅い正常塩基の切断は通常は問題にはならないはずである。D238E変異型の活性がある程度残っていたことも、メチル化塩基が溝に入るとき、ある程度遊びがあるからと考えるといい。このような活性部位である溝の姿と損傷塩基のフリップアウト機構が、AlkAについての解けないパズルであった「分子量3万程度の単量体酵素が、どのように2本鎖DNAの狭い溝と広い溝両方に位置するいくつかの損傷塩基を認残するのか」についてもうまく説明できる。結局、損傷塩基切断の効率は、Seebergらが提案した28)ようにグリコシド結合の不安定性(これはAlkAには、UDGに存在するようなグリコシド結合を切れやすくすため塩基をプロトネートする残基がないので大切である)のに加え、フリップアウトしやすさ、溝への入りやすさ、Asp238へのフイツティグのよさ等で決まると維定できる。

DNAグリコシラーゼスーパーファミリ

 AlkAやEndoVと類似の構造をもつ蛋白質が他にもあるか、SWISS−PROTデータベースを 用いて3D−プロファイルサーチ20)、GenBankデータベースを用いてホモロジーサーチを行なったところ、単細胞生物やヒトを中心に60余りの蛋白質のアミノ酸配列に類似構造をとるものがあることが示された(1998.6現在)。それらの中で、蛋白質が単離され機能が明らかになっているものは、すべてDNAグリコシラーゼである。大腸菌、桔草菌、出芽酵母、分裂酵母の3mADGや大腸菌のEndoV、出芽酵母、分裂酵母、ヒト、マウスのEndoVホモログの他に、A:G(8-oxo-G)ミスマッチのアデニンを切る大腸菌(MutY)や分裂酵母(spMYH)のアデニンDNAグリコシラーゼ、MutYとアミノ酸配列の相同性が高いがG:Tミスマッチのチミンを切るメタン菌のチミンDNAグリコシラーゼ、8-oxo-G:C塩基対の8-oxo-Gを切りAPリアーゼ活性をもつヒト(hOgg1)、マウス(mOgg1)や出芽酵母(yOgg1)のOGDG、EmdoVとアミノ酸配列の相同性が高い(439名の一致度)が、EndoVと異なりチミンダイマーを認残するMicrococcus luteusのUV−エンドヌクレアーゼ、EndoVに似た基質特異性に加え、ホルムアミドピリミジン(Fapy)やA:8-oxo-G塩基対の8-oxo-Gも切り、APリアーゼ活性ももつ出芽酵母のDNAグリコシラーゼ(NTG1/Ogg2)29)が含まれる。これらは総称してDNAグリコシラーゼスーパーファミリーと呼べる。このように本スーパーファミリーに属するDNAグリコシラーゼの基質特異性は多様で、まったく異なる酵素と考えられていたDNAグリコシラーゼのみの啓素とAPリアーゼ活性を合わせ持つ多機能酵素がともに同じスーパーファミリーのメンバーであることが、大きな特徴である。

 DNAグリコシラーゼスーパーファミリーの共通構造は、AlkAのドメイン2のC末部に 位置するHhHモチーフとそれからドメイン3に連なるループーヘリックス(AlkAとEndo Vで立体構造類似性が高い1つの剛体領域)を含む2つのα型ドメインと思われるが、アミノ酸配列の相同性が各ファミリー間でそれはど高くないので、2つのドメインのどのヘリックスを含む構造が最小共通構造かについては明確でない。スーパーファミリーの全メンバーのアミノ酸配列を並べて見ると、AlkAに加え、大腸菌MutY、大腸菌やヒトのEndoV、yOgg1、mOgg1、hOgg1でも活性部位であると示された2つのドメイン間の溝を作る領域に相当するところが全スーパーファミリー内全てもしくは、各ファミリー内で相同性が高い。その領域を主なグリコシラーゼと種について表3に示す。これらから(1)先に述べたように、我々がグリコシラーゼの触媒活性に重要と示したAsp238は完全に保存されている。

(2)明確なAPリアーゼ活性を持つものは、共通してAlkAのTrp218に相当する位置(HhHモチーフの2番目のへリックスのN末側)がLys残基である。(3)ファミリー内のみに保存されている残基が幾つか見いだされるか、これらはファミリーの基質特異性発現に関与していると推定できる。(4)全ファミリーを通して活性部位周辺には多くの塩基性残基か存在しているが、これらは立体構造上近いところに位置しており、DNAとの相互作用領域もよく似ていることが示唆される。等が明らかとなった。

APリアーゼ反応機横については多くの研究が報告され、酵素のアミノ基と糖のC1'位がShiff塩基型の共有結合する反応中間体を経て、C2'位のプロトンの引き抜きでβ-脱離を起こし、3'-リン酸ジエステル結合が切れるとされている(図6b)30)。Shiff塩基型共有結合中間体は、NaBH4で還元すると安定な酵素-DNA共有結合体として単離できるので、hOgg131)で次にヒトEndoV)でDNAと共有結合しているフラグメントのアミノ酸配列が決められ、APリアーゼ活性をもつグリコシラーゼに完全に保存されている(AlkAのTrp213に対応する)Lys残基が、DNAと共有結合するアミノ基であることが証明された。 さらにヒトEndoVではグリコシラーゼ活性にもこのLys残基が必要であることが示されているので、Verdineらが推定したグリコシラーゼ/ATPリアーゼ反応機構が正しいのかもしれない(図6c)10)

それでは、AlkAのようなグリコシラーゼ活性のみの酵素の対応する位置にLys残基を導入 するとAPリアーゼ活性を獲得できるのであろうか。我々がこれを調べるために調製した AlkAのW218K変異型は、先に述べたようにメチル化塩基に対するグリコシラーゼ活性は消 失していたが、3’位を32PでラべルしたAP部位をもつDNAオリゴマーとその相補鎖を基質にAPリアーゼ活性を測定したところ、W218K変異型はEndoVと同しオーダーのAPリアーゼ活性を持つことがわかった(図7)。予備的実験ではあるが、W218K変異型もA P部位で共有結合中間体を経由してAPリアーゼ活性を発現していることが示唆されている ので、AlkAのW218K変異型のAPリアーゼ反応機格も今まで推定されてきたもの(図6b) と同様と考えている。今回の拮果から、218位に相当するところのLys残基の有無のみが、APリアーゼ活性の有無を決めていることが判明した。グリコシラーゼからグリコシラーゼ/APリアーゼヘの転換についてはAlkAのアルキルィヒ塩基を基質とする限り、APリアーゼ の必須Lys残基とアルキル化塩基との相性の悪さから難しいが、正に荷電しないAlkAの基質、例えば5-ホルミルウラシルなどで調べれば、可能かもしれない。

本スーパーファミリーに属するDNAグリコシラーゼの基質特異性は多様で、APリアー ゼ活性の有無も異なっているし、活性部位のアミノ酸残基もファミリー間で特に多様である。しかしながら、今回、Lys1残基の導入のみでAPリアーゼ活性が新たに発現するということが明らかになったり、ファミリー聞で基質のオーバーラップがあったりと、本スーパーファミリーの立体構造は、様々なアミノ酸残基への変異に寛容で、一つの共通祖先を起源として、それぞれに多様な特有の基質特異性やAPリアーゼ活性を獲得するように進化するのに都合がよいものと推定できる。そうであるならば、我々がさらに多くのグリコシラーゼファミリーの立体横造を詳細に知れば、今後新たに生しるかも知れないDNAの損傷に対応するDNAグリコシラーゼの設計も可能になるであろう。

AlkAの3次元横造が決定され、まったく不明であった活性部位に関する知見が得られた。 また、損傷DNA認識機描についても推定できた。さらに、基質特異性や酵素活性の異なる DNAグリコシラーゼスーパーファミリーの存在とその基質特異性や酵素活性に関する構造 基盤の解明の糸口も見い出せた。今後は、本スーパーファミリーに属するDNAグリコシラーゼー損傷DNA複合体の結晶構造の解明が急がれる。

おわりに

本稿で紹介した研究のうち1996年に論文が出版された以降のものは、大阪大学大学院薬 学研究科高分子化学分野(小林祐次教授)の修士2年中野博明君が行ったものです。また、 放射光研究施設(PF)でのデータ測定では、坂部先生をはしめ、PFの皆様に大変お世話 になりました。関係各位に感謝します。

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