『ゲノム時代の創薬と構造生物学』

三菱化学
三菱生命研究所


松崎 尹雄




要旨:ヒトゲノム配列が1−2年の内に明らかとなり、マウスのcDNAもほとんどが作製され、 研究者に公開されつつある。一方、百万化合物を1日で合成し、1週間で活性を評価するコンビケム、 HTSも浸透し、医薬の探索研究のスピードも非常に速くなっている。このような状況で、 構造生物学の取り組みに大きな変革が要請されている。 我々の取り組みを紹介して、ご参考に供すると同時に、企業間または大学−企業間の共同研究 または委託研究を検討する機会としたい。

 ゲノムDNA、cDNAに平等にアクセス可能となったことは、すべての 蛋白質が構造生物学の対象になったことを意味し、問題は、どの蛋白質を 構造決定すべきかの選択になってきた。我々のグループでは、プロテオーム 研究により病因蛋白質を探索し、対象を選択することを試みている。

 蛋白質の立体構造決定には1−数百mgの蛋白質試料を必要とする。 さらに、X線における結晶化、NMRにおける可溶化を達成するには 遺伝子組み換えによる蛋白質の大量生産を、結晶化または可溶化の条件検討 の一部として、構造生物学グループ内の機能として持つことが、必須と 思われる。200種類の発現ベクターを実験することにより、構造決定に 適する蛋白質試料を作製することができ、構造決定の迅速化に最も大きく 貢献する。

 医薬の標的蛋白質の立体構造にもとづいて、理論的に医薬候補化合物を 設計することができれば、蛋白質立体構造情報の価値が大きくなり、 構造生物学の産業利用も活発になると思われる。我々の医薬分子設計の 取り組みも紹介する。